[東京 30日 ロイター] 10月鉱工業生産指数は5カ月連続の低下となりながらも市場予測を上回ったうえ、先行きの生産予測は持ち直し傾向がうかがえ、企業業績の上振れ期待を手掛かりにした株価上昇シナリオが描けるようになってきた。

欧州財政懸念や中国の利上げ観測などから株価は軟化しているものの、好調が伝えられる米国の年末商戦の結果を待って、再び上昇波動を鮮明にして行くとの見方も出ている。

経済産業省が30日発表した10月鉱工業生産指数速報(2005年=100、季節調整済み)は、前月比1.8%低下の91.1で5カ月連続の低下となったものの、ロイターの事前予測調査前月比3.3%低下を上回った。さらに、11月の製造工業予測指数は前月比1.4%上昇、12月は同1.5%上昇。市場では「5月から続いていた生産調整局面は10月で終了し、年末にかけて回復に転じる可能性が大きい」(マネックス証券・チーフエコノミストの村上尚己氏)といった声が出ており、低金利からくる潤沢なマネーをバックに上向く企業業績を織り込む──といった相場シナリオを、統計上で裏付ける形となっている。

懸念されていた補助金の終了による自動車生産の減少や、世界的在庫調整の電子部品・デバイス工業への影響が予想よりも小さかった点が持ち直しの要因として挙げられる。自動車については大手販売ディーラーから「打ち切りの直後は影響があったものの、足元の11月には回復基調に入った模様」(VTホールディングス(7593.OS: 株価ニュースレポート)の高橋一穂社長)といった指摘もあった。

こうした点を踏まえ、野村証券金融研究所・シニアエコノミストの尾畑秀一氏は「来年1─3期以降、輸出の回復に伴って鉱工業生産は再び回復基調を鮮明化させると予想。今後はエコカー補助制度の反動一巡のタイミングとともに、円高による輸出下押し圧力が残存すると見込まれる中で、海外景気回復の恩恵がどの程度、生産活動へと波及し得るのかが注目される」と分析している。

生産の上向き見込みに加えて、ドル高/円安に振れた為替相場も、強気のシナリオを後押しする状況だ。9月中間決算発表時点で、各企業は下半期の想定ドル/円レートを円高方向に修正した後だけに「生産という数量面だけではなく、為替相場という採算面からも、2011年3月期業績見通しの上積みが期待できるようになってきた」(エース経済研究所・社長の子幡健二氏)という。足元のドル/円相場が84円近辺で推移する中、たとえば、日立(6501.T: 株価ニュースレポート)、ホンダ(7267.T: 株価ニュースレポート)などは80円に想定レートを設定している。

ソブリンリスクの再燃から欧州経済の行方が心配されるようになっているが「企業の収益源として欧州はそれほど大きくない。ユーロ圏売上高比率の高い企業もあるが、それらは物色面で個々に対応する形となり、相場全体へそれほど影響を及ぼさないだろう」(大手生保系投信運用担当者)といった指摘もあった。野村証券によると、09年度の日本企業の地域別利益構成比で欧州は2%程度。欧州向けが大きなダメージを受けても、大幅増益予想を崩すまでには至らないとみられる状況だ。

一方、10月鉱工業生産は好材料と位置付けられながらも、30日の株式市場は後場に入ってから下げ幅を拡大させた。これについて市場では、利上げ観測から中国株式市場が下落したことが要因に挙げられていたほか「このところ毎月月末になると、リバランスの動きで相場が崩れる例が目立つ。きょうもそのような感じだ」(コスモ証券・投資情報部副部長の清水三津男氏)といった声が出ている。

さらに「米国のクリスマス商戦が活発化しているとみられ、本来なら(株式が)売り込まれるような環境ではない。もっとも、良いとわかりながら、評価するのは結果が明らかになった後とするマーケット参加者が多いようだ」(岡地証券・投資情報室長の森裕恭氏)との指摘もあるなど、26日のブラックフライデー(感謝祭翌日の金曜日)から始まった米年末商戦がどうなったか──市場ではこの結果待ちのムードもある様子だ。

現時点で明らかになっているネット販売に関するデータをみると、調査会社コムスコアの分析で今年の感謝祭当日のネット販売売上高は前年比28%増の4億0700万ドル。2010年の米年末商戦は、感謝祭の週末に続き、ネットに多くの買い物客が集まる日である29日の「サイバーマンデー(感謝祭明けの月曜日)」もネット販売の売上高が好調が想定されており、3日に発表される11月米雇用統計が上向きを示唆すれば「米国の消費回復を手掛かりに、輸出関連株に対する業績上振れ期待が高まりそうだ」(前出の大手生保系投信運用担当者)との見方も出ている。

(ロイター日本語ニュース 水野文也; 編集 田中